小さなレンチでさえ大きな違いを生みます。フランスではApple、Samsung、Microsoftを始めとした製造メーカーが、自社製品の透明性と長期サポートの拡充に向けて動き出しています。これは彼らが望んで取り組み始めたものではなく、下のラベルにあるように、レンチと歯車のアイコンをより美しい緑色に変えるための取り組みです。

これらのテックメーカーはフランスで導入された新しいリペアビリティの評価法を遵守しています。私たちは10年以上前からテック製品のリペアビリティ(修理のしやすさ)を評価してきたので、目新しいものではありません。そしてフランスのインデックスの開発にも参画しました。この新システムは、期待に応えてくれるでしょうか?メーカーが修理しやすい製品を開発するための啓発となるでしょうか?端的に言えば「イエス」、しかし製品の評価方法にも抜け穴が存在するものです。そこでフランスのシステムがどのように機能し、iFixitのリペアビリティ評価とどう比較されるのか、深く掘り下げてみましょう。
フランスで販売されているスマートフォン、ノートパソコン、テレビ、洗濯機、芝刈り機の5種類の製品は、価格のすぐ横にリペアビリティのスコア表示しなければなりません。このスコアは、サービスマニュアル、解体のしやすさ、パーツの入手しやすさ、パーツの販売価格、製品固有の資産という5つの項目に分けられ、それぞれ20%のスコアを占めます。
欧州の技術規制と同様、フランスのリペアビリティスコアは自己申告制です。このスコアはフランス市場当局によって監視されますが、最初の1年間は制裁がありません。欧州修理権連合(European Right to Repair coalition)は、指標となるスコアの要点と注意点を非常にうまくまとめています。これは法律であり、詳細な採点表ですが、最終的なスコアはモデル間で精密に比較できうるものではありません。

自己申告のリペアビリティスコアは既に影響を及ぼしています。驚くことにSamsungは、Galaxy S21+のスコアを上げるためにフランス語の修理マニュアルをオンライン上で無料で公開しました。これこそ私たちが長年にかけて要望してきたことで、Le Monde誌によるとSamsungは修理マニュアルを無料提供する最初の大手携帯電話メーカーです。その一方、米国内でSamsungの修理マニュアルが欲しい場合、SamsungParts.comから12ドルのUSBドライブを購入し(送料は8ドル)、郵送で届くのを待ちます。現在のところ、S21の修理マニュアルは英語で公開されていません。おそらくSamsungはマニュアルを提供しても何の得にもならないと見込んでいるからでしょう。
Microsoftは独自で評価したリペアビリティスコアを公表していますし、Googleも同様です。丹念に仕込まれた環境メッセージ以外の修理について話したがらないAppleでさえ、フランス語のサイトにリペアビリティスコアを公開しています。
Appleが評価したリペアビリティスコアを見てみましょう。AppleはiPhone 12と同シリーズに6.0(10点満点中)を与え、一方でiPhone 11は4.5-4.6が付いています。M1チップ搭載の新MacBook Airは6.5、M1 MacBook Proは5.6というスコアです。iFixitのヘビーユーザーの方は、特にMacBookのスコアは、iFixitのリペアビリティスコアと大きくかけ離れていることに気づくかもしれません。私たちが評価したAppleの最新ラップトップのリペアビリティスコアは1から3です。実際に、iFixitの評価方法はフランスのものと比べて大きな違いがあります。
Appleで公開されているスコアの詳細を見てみると、採点方法の仕組みがよくわかります。Appleのスコアシート(iPhone 11, 12)は、フランス語で、PDFはGoogle翻訳することができません。そこでより分かりやすくするために、フランス公式の英語版スコアシートを使ってスコアの内訳を確認しました。
2機種のiPhoneモデルを、「妄想でフランス語を読み解くリペアビリティスコア」を採点してみましょう。
iPhone 11 vs. 12
iPhone 11

iPhone 12

マニュアルの文書化
最初のカテゴリーは、Appleがこれまでほとんど公開してこなかった「修理マニュアル」です。10点満点で、iPhone 11とiPhone 12はともに6.2点です。この数字の裏側には、ランキングの要素が記載されたスプレッドシートがあります。
「修理業者」と「ユーザー」の両方に対して、4年以上という長期にわたる修理情報の提供を約束したことが、大きなポイントアップに繋がりました。Appleは分解図、配線図、エラーコード、機器リスト、その他の修理の詳細を提供していますが、それはプライベートツールネットワークを通じて認定された技術者にのみに提供されています。消費者はソフトウェアのリセットとトラブルシューティングのヒントを得るだけです。
このスプレッドシートは、製品のモデル番号が明記されていること、”プロの修理業者へのアクセス方法 “や “ユーザーとメンテナンスの手順 “に関する情報など、簡単な項目が多く含まれます。Appleの評価でどのようにして6.2になったのか正確には分かりませんが、このスプレッドシートから目測はできます。Appleの正規修理業者は技術的なツール等を入手できて、ユーザーは「再起動してください」というメンテナンスに関するメッセージを受け取ります。このようなサービスが追加されてスコア6.2となるのでしょう。正規修理サービス業者の近くに住んでいない場合は、あまり参考になりませんが、これが仕組みです。

それでは、私たちが気に入っている項目について紹介しましょう。
デバイスの解体

分解の基準は3つに分けられます。どんな道具が必要か、解体までに何工程あるか、部品に使用されている留め具(ネジ、接着剤など)の種類です。
例えば、最初のチャレンジはバッテリー、ディスプレイ、フロントカメラ、リアカメラ、チャージャー(充電ポート)を外す場合、修理の手順は何行程あるかが採点されます。行程の数が16以下、11以下、6以下で済むとポイントが上がり、工程数が16を超えるとポイントは加算されません。これは「時は金なり」という考え方に基づき、複雑で時間のかかる修理は、簡単な修理よりも経済的ではないということです。
iPhone 11はこの項目で0.8ポイントを獲得し、iPhone 12は2.5ポイントを獲得しています。実際のAppleが記入した数値がないため、推測の域を出ませんが。iPhone 12のバッテリー交換は、スピーカーの設計変更により少しシンプルになりました。これは1.7ポイントにはならないかもしれませんが、数字を少し変動させる一つのポイントになるかもしれません。必要な工具や留め金については、iPhone 11と12は同じスコアでした。
“でもちょっと待って “と思うかもしれません。何をもって「行程」を数えるのでしょうか?そして誰がその「工程数」を決めるのでしょうか?” これらは素晴らしい質問です。Appleは、iPhoneのバッテリー交換の工程数を報告しています。フランスは、何をもって1行程とするかを判断するために、この下の図を提供しています。

そのシステムの中で、AppleはiPhone 11の分解で20点満点中4.3点、iPhone 12で5.9点と報告しています。それとは対照的に、iFixitのリペアビリティスコアは両機種に同じ総合得点を与えています。
交換パーツの入手のしやすさ
次の20%は「交換パーツの入手のしやすさ」です。マニュアルの文書化と同様に、複数年にわたるコミットメントがあるか重要視されていますが、ここには「納期」の要素も含まれています。私たちは、部品の納期をスコア採点に考慮したことはありませんが、これは良いアイデアです!部品は、必要なときに手に入るものでなければ意味がありません。
私たちの採点システムと類似している点は、フランスも発生頻度の高い故障や不具合が起こりやすい部品(スクリーン、バッテリー、フロント・バックカメラ、充電器)を重視していますが、デバイスを機能させるために「必須の」部品(マザーボード、ボタン、マイク、スピーカー)の交換にも高い要求をしています。交換用のパーツをどれぐらいのスピードで、製造パートナーや部品の販売業者、修理テックたちや一般ユーザーたちに提供できるかもポイントに影響します。


予想通り、iPhone 11、12ともに消耗する部品の入手しやすさについては、まずまずのスコアです。二次的な機能部品の入手しやすさは前者と比べて低い評価でした。以前よりiPhoneは、Appleストアで素早くスクリーンやバッテリーを交換できるように設計されています。Appleは自社が契約した正規修理代理店以外にはメインパーツを提供しないので、今のところSamsungはこの項目ではAppleより高得点を稼ぐことができます。一方で、Appleは限定された技術者たちに部品を提供するため、おそらく迅速に修理を完了することができ、このパーツの入手しやすさという項目では20点のうち9.3点を獲得しています。
交換パーツの販売価格

次は交換用部品の価格です。この項目は、iPhone 11が0点であるのに対し、iPhone 12が20点満点中12点を獲得している点で大変興味があります。なぜなら交換頻度の高い部品を修理テックや一般ユーザーに提供しなければ、この20ポイントの項目で0点の評価を受けるからです。このリストのうち5つの部品をすべて提供していると仮定すると、このスコアのもう1つの要素は価格比に基づきます。機器全体の価格や、最も高額な部品の価格、よく壊れるパーツの平均価格を入力します。新しい機器を購入するよりも、部品の価格が高すぎると0点になることがあります。
Appleが評価した実際のスコアがないため、この項目におけるiPhone 11と12の間で顕著な違いがあるということだけ推測できます。
両モデルの大きな違いは、11の販売価格は80784円だったのに対し、12は94380円と価格が上昇しています。一方で交換部品の価格がほぼ同じと仮定すると、単純に端末の価格を上げた方が「リペアビリティ」のスコアが高くなります。Appleストアで依頼するiPhone 12のOLEDスクリーンの修理費用は42800円、iPhone 11は28800円です。この凖項目でiPhone 12のスコアはゼロではなく、20点満点中12点という驚くべきスコアを出しています。
スコアの違いの要因として、他にもいくつか考えられます。 Appleは最近、新しいロジックボードと充電ポートを含むiPhone 12用のリアケース交換モジュールの提供を開始しました。また、iPhone 12には充電器が同梱されておらず、19ドルのアクセサリが部品コストの価格を抑えた可能性もあります。しかし、実際にAppleが弾いた試算にアクセスし、徹底的な独立監査を受けなければ、このリペアビリティスコアにどうやって辿り着いたかを知ることは難しいです。しかし、何かの要因によってiPhone 12はこの交換パーツの項目で満点中60%のスコアを獲得し、iPhone 11は全く歯が立ちませんでした。
スマートフォンの具体的なメンテナンス:アップデートやアシスト、リセット
リペアビリティ評価の最後の20%は、スマートフォン特有のソフトウェア情報に関するものです。例えば芝刈り機や洗濯機、ラップトップ、テレビは独自の基準5を獲得します。項目は”アップデートの種類に関する情報”や”リモートアシスタンス”、”リセット用ソフトウェアの種類 “があります。各項目の大部分は、YES/NOの回答形式です。例えば、アップデートに関する詳細な情報を提供しているか?トラブルシューティングや修理に関するリモートアシスタンスを提供しているか?ファームウェアやオペレーティングシステムのリセットは可能か?といった質問です。この項目では、iPhone両モデルとも、20点満点と評価されています。iFixitの採点システムに、このような項目は含まれません。
スコアだけが全てではない
iPhone 12のリペアビリティ総ポイントは11と比べてわずかに1.4ポイント上で、黄色から薄緑色のガジェットと変化しました。このスコアの差は、分解と交換用部品に起因します。分解については、iPhone 11のスコアが4.3であるのに対し、iPhone 12は5.9を獲得しています。また部品の入手しやすさについても、11では0に対して12モデルは12を獲得しています。(理由はいくつか考えられます)。Appleがグリーンバブルを目指すというのはおかしな話ですが、本質的によく似ている2つのデバイスでも違いがあります。
このリペアビリティスコアを見つけたとき、念頭においてください。フランスのシステムでは、セキュリティアップデートを通知する、サポートチャットやFAQを提供する、リセットのオプションを用意するといった対応で、スコアが20点満点となります。またモデル番号を分かりやすく表記しているかどうかもポイントになります。センター試験で名前を書くだけで点数がもらえるのと同じです。そして最後の項目だけが、スマートフォンに特化したものです。モデル番号を調べるのが面倒だったり、リセットの仕方がよく分からない機種もあります。
欧州の修理する権利団体は、この評価方法には幾つかおかしな点があると指摘しています。
設定された各基準やサブ基準の比重に弱点が見られます。例えば、発売から2年後に交換用パーツが入手できなくなる製品であっても、修理が簡単にできる製品であれば高いリペアビリティスコアを獲得できます。しかし2年後に部品が手に入らないなら、どんなに優れた設計でも意味がありません。
一方で、デバイス全体が修理可能なFairphone 3+はで10点満点中8.7点のリペアビリティスコアを獲得していることを背景に考えてみましょう。分解とソフトウェアサポートは満点、修理マニュアルと部品の入手しやすさ/価格も高得点で、消耗品以外の部品の入手に関る迅速なロジスティクスで少し伸び悩みました。スマートフォンのリペアビリティスコアを10点満点にするには、新しい充電ポートを注文から3日以内に届ける必要があります。8.7点というスコアの背景には、こういった重要な要素があります。
よりグリーンな未来を目指して
Appleが採点した2台のiPhoneをリバースエンジニアリングした結果、何が分かったのでしょうか。私たちは、フランスのリペアビリティスコアは現実社会で修理できる可能性を反映しているという証拠を得ましたが、同時にサブ項目でさえ、より詳細な情報がなければ不透明であることもわかりました。このシステムは、私たちが分解を通して精査するのと同じ重要な要素が含まれており、さらに踏み込んでいることは多大な評価に値します。一方で修理ネットワークを厳密に管理したいメーカーへの配慮も見られます。そしてフランスの指標は企業を貶めるものではなく、むしろフランスや欧州全体の循環型経済(サーキュラーエコノミー)の発展を促進するためのものです。

間違いなく、これは修理をしたいユーザーや業者にとって大きな前進です。フランスは、スマートフォンメーカーが修理を提供するために競争させる機会を作りました。そしてメーカーたちは高スコアを目指して競争することになるでしょう!Samsungがサービスマニュアルやスペア部品をユーザーに直接提供しているように、既に変化が現れています。これは素晴らしいことです。もしメーカーが自社製品のリペアビリティスコアを5.9から6に上げると、環境に優しいグリーンスコアを獲得できると知れば、おそらくその差を埋めるために部品販売の期限を延長するでしょう。
フランスは、責任ある製品設計の道を歩んでいるように、私たちもガジェットをより長く使えるようにしなければなりません。修理をしやすくする競争は、メーカーがその責任を負うことを前提にして、私たち全員にとって社会にとって、大きな勝利となります。
日本語訳: Midori Doi
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