接着剤は、日常の様々な問題を解決してくれます。壊れた花瓶を元通りにくっ付けたり、かわいいコラージュを作ったり、電子製品をひとつに固めてくれたり。キーワードは「物と物をつなぐ」です。しかし接着剤は、あまり寛容的ではありません。不運にもプールに浸かってしまったあなたのスマートフォンから取り出した部品は、イソプロピルアルコールに漬けなければなりません。(いいですか、液体被害の部品をお米の中に入れても効果はありません)あるいはスクリーンに亀裂が入ってしまったか、バッテリーが消耗してダメになってしまったかもしれません。
部品の磨耗であれ、アクシデントであれ、修理をするには部品を取り出さなければなりません。いつかあなたにも、ガジェットを設計した人を憎みながら、何層もある頑固な接着剤にイソプロピルアルコールを注入して、吸盤カップで慎重にこじ開ける日がやって来るかもしれません。

電子機器はなぜ接着剤だらけなのか?
電子機器の多くに接着剤が使用されています。時には過剰すぎるほどです。接着剤には、耐久性、防水性、そしてもちろん、パーツ全てを一つにまとめるという、主要な役割があります。
ここで一度、接着剤の定義を確認しましょう。技術的には、多くのエレクトロニクスに使用されている「接着剤」は通常の「接着剤」ではありません。接着剤とは、複数のものを装着して、粘着力をもたらします。「接着剤」は、様々な種類の強力な接着剤という意味で使われることがあります。しかし技術的な文脈上では、最初は液体状で時間の経過とともに硬化して固まり、結合する接着剤を意味します。デバイスに使用される接着剤は、一般的に「感圧接着剤」(PSA)で、あらかじめ成形されているものが圧力に反応して材料に接着します。子供の頃にクラフト工作で使ったドット糊もPSAの一種で、あらかじめ成形されているので、使いたい場所に塗って、しっかりと押し付ければいいのです。液状接着剤は、電子機器ではPSAに比べ使用頻度が低いものの、接着剤も感圧接着剤も同じ意味で使われることが多いのが実情です。いずれも修理を厄介にする粘着性のある物質です。
接着剤の使用は修理を厄介にすると理解されているはずです。少なくとも接着剤はデバイスに宣伝された機能を果たしてくれているのでしょうか、答えはYesとNo、どちらも当てはまります。
強度のための接着剤

耐久性を考慮すると、接着剤は衝撃をある程度緩和し、デバイスを損傷から保護する補強になることもあります。携帯電話の中には、スピーカーからの振動を和らげるなど、非常に理にかなっている役割もあります。ユーザーの使用頻度が高い機能に合わせて特定の予防対策が組み込まれているのは良いことです。
しかし接着剤は必要不可欠な用途だけに使われているわけではありません。製造の効率化や材料価格の削減、薄型化に加えてデザイン性の向上などを実現するために、あらゆるデバイスに使われています。薄型デザインのトレンドに対応するため、接着剤で固定された最近の携帯電話では、2つの役割を担っています。例えば接着剤が使われているバッテリーは、薄型デザインが持つ構造的な完全性を補強できます。一見したところ、限られたスペースに機能を集約するスマートな方法です。しかし可燃性物質が詰まったフォイル製パウチに構造的な完全性を頼るしかない薄型のデバイスは、あまりにも薄すぎるのかもしれません。Fairphone 4のバッテリーは接着剤なしでハードケースに固定されていて、iPhone 13よりもわずか3mm厚いだけです。しかも人気ユーチューバーJerryRigEverythingのスマホの折り曲げテストに見事にパスしています。
マウンテンバイクやモータースポーツなどの激しいアクティビティによる落下ダメージや過度の揺れには、接着剤で衝撃を吸収させる内蔵技術に頼るのは現実的ではありません。強い振動からデリケートな部品を保護するには、カバーや振動を軽減させるマウントのような部品が必要です。しかしそのような設計が施されたデバイスであることを宣伝したくても、全ての可能性を断言すべきではありません。衝撃吸収に優れている接着剤を使用すれば、落下によるスクリーンの破損は起きないはずだからです。設計上、デバイスの耐久性を高めるために接着剤が使われることはありますが、どこもかしこにも接着剤を塗布するのはおかしな話です。
防水性能としての接着剤

防水性能上、接着剤はしばらくの間は非常に有効ですが、その効果には限りがあります。箱から取り出したデバイスは、化学的・物理的なあらゆる環境条件にさらされ、接着剤が劣化します。多くのスマートフォンメーカーは、どのような宣伝内容であろうとも、自社製品が水中で使用されることを前提とした設計でないことを公表しています。トレンドに気づいていますか?もし製造メーカーが防水性能に自信を持っていれば、液体侵入による破損に対しても保証対象にしているはずです。
この10年の間で私たちはより長く携帯電話を使い続けるようになり、多くのユーザーは2年以上使い続けています。これは地球環境と増え続けるE-Waste(電子機器廃棄物)を考えれば朗報です。しかし依然として、メーカーは短い寿命を想定したデバイスを設計しているため、新しい機種にアップグレードしようと思う前に、バッテリーの消耗やパーツが破損してしまう可能性があります。しかしここに相反しない真実があります。携帯電話の防水性能が低下しても、ユーザーが内側を簡単に開けれるとは限りません。防水性能があるわけでもなく、簡単に修理できるわけでもない、これこそ最悪の状態です。
防水性能があるわけでもなく、簡単にデバイスを開口して修理できるわけでもない。これこそ最悪の状態です。
デバイスの内部を開いて、できる限り水没被害を修復し、耐水性を取り戻したいですか?それなら古い接着剤を除去して、新しい接着剤に交換が必要です。まず接着剤を加熱して温め、デバイスをこじ開けて、接着剤をスライスして、古い接着剤を溶解させる必要があります。それから新しい接着剤を適切に塗布します。作業は可能ですが、簡単な作業ではありません。2020年モデルのiPhoneでは、デバイスの開口作業だけで最大2時間、液体による腐食のダメージを処理するのに1時間、そして接着剤の交換にさらに1時間かかることがあります。簡単な修理ではありません。特に、浸水被害を心配しなくてよいものと宣伝されていれば、言うまでもありません。
ベタつきのない安全性
過剰な接着力を切り離せば、防水性能は電子機器に備わる素晴らしい機能です。機能する限り、液体被害を防いでくれるので、デバイスを保護する手間が省けます。しかし防水シールの強度が低下して、不運な浸水事故が発生してしまった場合、修理を始めるまでの重要な時間が遅れてしまいます。海水浴やプールサイドのパーティで水没してしまったスマートフォンを取り上げたオシャレな広告は、何の意味ももちません。そのような使い方をしても大丈夫、という期待を持たせかねません。単にリスクを無視した間違った安心感は、スマートフォンを早死にさせる可能性があります。

色々と詮索している暇はありません。
ここに代替案があります。デバイスの固定にネジを使用し、問題のある部分には疎水性コーティングや耐水性の高い交換可能なガスケットを併用する方法です。これを組み合わせれば、耐水性能を持たせることができます。またビーチやプール、シャワー、バスタブなど、危険な場所にわざわざ持ち込む場合は、普段使っているケースを防水タイプに変えることもできます。
個人的には、スピーカーなどの開口部の保護に使われている防水防塵用メッシュを、もっとクリエイティブに使ってほしいと思っています。耐水性を犠牲にすることなく修理性を高めるには、新しい技術が必要かもしれませんが、それでも加熱やこじ開けにかかる手間と時間を省けるでしょう。
接着剤は修理とリサイクルを妨害
接着剤の問題は、誤った安全性の認識やシール不良による機器の破損だけではありません。接着剤の持つ性質とメーカーが考案する汎用性によって、修理をより複雑にさせています。割れたスクリーン、バッテリーの交換、機能しないボタンといった一般的な修理は、骨の折れる接着剤の除去から始まります。デバイスをより長く使い続けたいDIY愛好家たちにとって、腹立たしいハードルです。また強力な接着剤が使用されたバッテリーの取り外しは、火災の危険性が伴います。
フォイルで包まれたバッテリーが修理を妨げる

取り出したバッテリーを安全に保管するバケツ
可燃性リチウムイオンバッテリーは、以前までハードケースに入れられて接着されていました。現在はホイル製パウチに包まれて接着剤で固定されているのは、修理にとって痛手です。作業中、バッテリーを傷つけてしまう可能性があります。バッテリーに穴をあけたり、落下するなどのダメージを与えると、バッテリーがショートして発熱し、発火する「熱暴走」と呼ばれる反応が起きることがあります。
iFixit CEOのKyle WiensはWiredでこう語っています。バッテリーをこじ開ける時、「災いから守ってもらえるよう祈り、砂の入ったバケツと消火器を手元に置いておきます。」
バッテリーのリサイクルの難しさ
この問題は、DIY愛好家や何百万台もの電子機器を処理するリサイクル業者にとって、さらに深刻な問題です。修理が不可能になった場合、このプロ集団たちが安全に廃棄物処理をして、将来の再利用に向けて材料を回収してくれることを願うしかありません。彼らはそのために何とかして凌いでくれています。
世界中のリサイクル業者は、廃棄された何百台もの携帯電話からバッテリーの回収を行っています。その作業を困難にしているのが、接着剤です。
繰り返しになりますが、接着剤はデバイス内部を一体化させるのに非常に有効ですが、リサイクル業者はデバイスを分解する必要があります。密封されたデバイスからパーツは採取できませんし、バッテリーを残りの本体と一緒にシュレッダーにかけることもできません。(リサイクル工場全体に火がついてしまうのを覚悟するなら別ですが)私たちスマートフォンのユーザーは、数年に一度だけバッテリーを交換すれば良いかもしれませんせんが、世界中のリサイクル業者は廃棄された何百台もの携帯電話からバッテリーの回収を毎日行っています。1年間に捨てられる何百万台というデバイスから、バッテリーを安全に取り出すのにこれほど長い手間と時間がかかれば、大規模なリサイクル作業にとって時間の無駄になります。
時は金なり。リサイクル業者にその余裕がなければ、これらの電子機器はどこかの倉庫に保管か、最悪の場合は埋立地に向かうことになります。そこで風雨にさらされると、火災発生や化学物質が土壌に漏れ出すでしょう。
接着剤の使用を減らして修理しやすくすれば、デバイスの耐用年数は延び、廃棄物の発生を抑えるだけでなく、使用済みバッテリーのリサイクルも容易になります。修理やリサイクルが容易になればなるほど、バッテリー廃棄も一般的になり、ゴミ収集車や埋立地でのバッテリー火災も減るはずです。
メーカーはバッテリー交換の安全性を高めることができた
メーカーはデバイスに潜む熱暴走の危険性を指摘して、ユーザーは自分でデバイスを開けるべきでないと証拠を上げて反論しています。「修理する権利」の公聴会が開かれるたびに、メーカーはロビイストを雇い、バッテリー火災について長々と恐怖を煽るような説明をします。一般ユーザーへのバッテリー販売が義務付けられたら、作業中の怪我に対して訴訟問題になりかねない、という手紙を議員に送っています。

もちろん、必ずこのようなアクシデントが起こるという必然性はありません。メーカーは、デバイス内部の設計を変更する力があります。以前のあるべきバッテリー交換作業、つまりとても簡単にすることができます。例えばFairphoneのバッテリー交換は、工具が不要、爪先だけで対応可能なたった4つの作業工程です。私たちの「リペアビリティスコア」で10/10という満点を獲得したのも、納得です。
メーカーにリスクの少ないバッテリーの設計を呼びかけているのは、私たちだけではありません。米国連邦取引員会(FTC)が、報告書「Nixing the Fix」で指摘したように「メーカーは製品の設計段階で、より安全に修理できる製品にするか選択できる。例えば、リチウムイオンバッテリー用パウチを簡単に交換できれば、作業時に穴を開ける可能性が減り、熱暴走を予防できる。」と述べています。

とはいえ、熱暴走のリスクは誇張されていると考えます。Appleがセルフリペアプログラムを発表し、iPhone用バッテリーの一般販売が始まってから、多くの苦情が寄せられています。それは販売された部品が1台の機種の端末識別番号(IMEI)にペアリングされること、工具を借りるために義務付けられる1200ドルのクレジット制度、そして作業中にスクリーンを損傷してしまいやすいことです。しかし不思議なことに、バッテリーの発火は報告されていません。メーカーが反対する修理する権利の要因は、そのリスクに基づくものです。スキルの低い一般ユーザーが交換用バッテリーに手を伸ばすとすぐに山火事の如く燃え広がるだろうというレポートです。 それどころか、バッテリーの接着剤に不満を持つ人が増えるだけです。
交換可能なバッテリーはメーカーにとっても有益
このような修理はプロに任せると豪語しながらも、時にはメーカー自身が甚大で危険な間違いーつまり修理できないデザインによる失態を招くこともあります。Samsungの大型のバッテリーを搭載したGalaxy Note7が炎上したとき、Samsungが対応した唯一の緊急措置は、携帯電話の電源を切って、速やかにSamsungに返却することでした。
この件に関して、Kyle Wiensは「もしSamsungがユーザーにバッテリーの取り外し方法を指示できたなら、おそらくそうしたはずだ。しかし残念ながらできなかった。バッテリーは接着剤で固定されているからだ。」とWiredにコメントしました。 Samsungが取った方法は、欠陥のバッテリーを交換するのではなく、Note 7本体を交換することでした。結果として、数十億ドルというリコール費用に加え、悪評スキャンダルに対応を迫られました。さらに追い討ちをかけるように、交換用のNote7デバイスも引火の危険性が高く、一部の機種は2度にわたる交換が必要だったことも注目です。より良い設計であれば、関係者全員がこの頭痛の種から解放されていたでしょう。メーカーが認めるかどうかは別として、ユーザー自身で修理しやすくすることは、メーカー自身にとってもユーザーにとってもWIN-WINとなるのです。
接着剤の代用品となるもの
では、接着剤の代わりに、どのような方法があるでしょうか。それは、過去のデザインに目を向けることです。


再利用できる留金、万歳!
過剰な接着剤を使用する以前の設計では、物を固定するためにネジ(標準ドライバーで対応できれば最良)を多用していました。フォイルで包まれたバッテリーが登場する前は、素手で取り出せるハードケースが主流でした。しかし現在は、人気の超薄型デザインにより、ハードケースやネジという古い留金に戻すのは容易なことではありません。少なくとも、解決可能な未来への道筋をつけるための応急処置として、現状を改善していくことは可能でしょう。
より優れた接着剤
仲良く付き合っていきたい接着剤といえば、ストレッチリリースタイプの接着剤です。ご存知ですか?接着剤に付いたタブを引っ張ると粘着性を失う接着剤です。釘を使わずに壁に絵を掛けるために使うコマンドストリップを思い浮かべてください。それを小さくしたものが、バッテリーの下に貼り付いています。ヒートパックやオープニングツール、イソプロピルアルコールを塗布する代わりに、ゆっくりと慎重に引っ張れば取り出すことができます。
プルタブは完璧ではありません。ハードケース付きバッテリーのようにホイルに包まれたリチウムイオンを簡単に、安全に取り出せるようにすることはできません。またタブを正しい角度で引くために、十分なスペースを確保するための工夫が必要で、ストリップは時間の経過につれて脆くなります。接着剤でしか使えない場合もありますが、このストリップはスピーカーやバッテリー、そしてスクリーンに使えます。そして作業がうまくいかなかった時のために、接着剤を温めて、こじ開ける作業をプランBにすることができれば、成功につながります。

いつか欧州は、取り外しと交換が可能なバッテリーの設計を要求するかもしれません。もしくはNote7のように、取り外せないバッテリーがその後の悪夢をもたらすという大惨事がまた起こるかもしれません。
私たちは自分のお金でもって、それを支持するかどうか決める責務があります。他の製品よりも修理しやすいものを選び、新モデルへのアップグレードをスキップして、代わりにバッテリーを交換しましょう。また購入先のメーカーに、より修理しやすい安全な設計が製品購入の決め手となったことを伝えることもできます。私たちが培ってきた常識や持続可能性、安全性の向上がメーカーに伝わらない限り、私たちはどこにお金を出すかという態度で大きな声に変えることができるのです。
翻訳:Doi Midori
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